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三千櫻(みちざくら)酒造:老舗酒蔵が北海道で紡ぐ新たな物語

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三千櫻(みちざくら)酒造:老舗酒蔵が北海道で紡ぐ新たな物語

三千櫻酒造:歴史ある酒蔵、北海道での新たな挑戦

岐阜県中津川市で明治10年(1877年)に創業し、140年以上の豊かな歴史を刻んできた三千櫻酒造。

その老舗が2020年、大きな決断を下し、酒造りの拠点を遠く北海道上川郡東川町へと移した。

現在、同酒造は北海道上川郡東川町西2号北23番地に蔵を構え、6代目蔵元であり杜氏でもある山田耕司氏がその暖簾を受け継いでいる。

この移転劇が特筆すべきは、単なる場所の移動に留まらない点である。

現役の日本酒蔵が都道府県を跨いで移転すること自体が極めて稀であり、さらに東川町との「公設民営」というユニークな連携モデルの下で運営されていることは、業界内外から大きな注目を集めている。

この事実は、単なる一酒蔵の物語を超え、現代の酒造りが直面する課題と、地域社会との新たな関係性を映し出す、示唆に富んだ事例と言えるだろう。

三千櫻酒造の根底に流れるのは、「酒は人と自然の絶妙な協働作業で生まれる」という哲学。

品質への飽くなき追求と、その土地ならではの個性を尊重する姿勢は、新天地・北海道においても揺らぐことはない。

むしろ、北海道の恵まれた自然環境を最大限に活かし、新たな酒造りの可能性を切り拓こうとしている。

この移転は、単なる住所変更ではなく、蔵の老朽化や気候変動といった業界全体の課題に対する、適応と未来への布石という大胆な意思表明でもある。

多くの伝統的な酒蔵が直面しうる問題に対し、三千櫻酒造が選んだ「完全移転」と「公設民営」という解決策は、「かつてない出来事」、「全国でも珍しい」と評されるほど異例である。

これは、彼らが構造的な問題に取り組む革新者であることを示唆しており、その物語は自社ブランドの枠を超えた業界全体の関心事となっている。

美濃から蝦夷へ:143年の時を経て北へ

三千櫻酒造の歴史

三千櫻酒造の歴史は、明治10年(1877年)、岐阜県中津川市で始まった。移転までの143年間、この地で酒造りの伝統を育んできた。

蔵には「酒造りも農業の担い手の一人である」という先代からの教えが受け継がれている。

移転の背景と東川町との出会い

しかし、時代の流れと共に、蔵は大きな転換期を迎える。移転を余儀なくされた背景には、深刻な理由があった。

  • 老朽化する設備: 築年数を重ねた岐阜の蔵は、特に酒造りの心臓部である麹室や瓶詰めを行う建物の老朽化が著しく、改修は困難、あるいは莫大な費用がかかる状況だった。岐阜での建て替え費用と、北海道で新たに蔵を建設する費用が同程度であったことも、移転決断の一因となった。
  • 気候変動の影響: 地球温暖化による平均気温の上昇、特に暖冬傾向は、酒造りにおける重要な要素である温度管理を年々難しくしていた。蒸米の冷却や発酵温度の管理に支障をきたし、大量の氷を必要とする期間も長くなっていた。これは、目指す酒質を安定して造り出す上で、無視できない課題となっていた。

これらの課題を前に、山田氏は「100年先まで三千櫻を残し伝えるため」、新天地を求めて数年前から北海道各地を視察していた。

当初はニセコや帯広なども候補に挙がっていたが、東川町との出会いが運命を決定づける。

東川町は、良質な水と北海道屈指の米どころという地の利を活かし、新たな特産品として日本酒に着目していた。

しかし町内には酒蔵が存在しなかったため、「公設民営」という画期的な方式で酒蔵を誘致することを決定。

町が施設(ハード)を提供し、酒造りのノウハウを持つ民間企業(ソフト)が運営を担うこのモデルは、三千櫻酒造にとって初期投資の負担を大幅に軽減するものであった。

冷涼な気候、良質な水、米への期待、そして最新鋭の設備という、三千櫻酒造が求める条件と、東川町が提供できるものが完璧に合致したのである。

2020年、三千櫻酒造は、設備と共に従業員とその家族全員で1500km以上の距離を移動するという、前代未聞の移転を敢行。同年11月7日、東川町公設酒蔵として、その新たな歴史の幕を開けた。

この移転は、単に三千櫻酒造が存続の道を見出したというだけでなく、持続可能な未来を求める酒蔵と、地域の特色を活かした活性化を目指す町との、相互利益が一致した結果である。

東川町は積極的に酒蔵を誘致し、その受け皿として公設民営モデルを構築した。

一方、三千櫻酒造は岐阜での課題から逃れるだけでなく、より良い酒造り環境を求めていた。

この成功したパートナーシップは、現代的な課題に直面する伝統産業と地域活性化を結びつける、模範となりうるモデルを示している。

言及されている「Win-Winの関係」は、この共生関係を的確に表している。

さらに、この移転は気候変動が単なる環境問題ではなく、伝統産業における重大な経営戦略上の意思決定を迫る、具体的かつ現実的な要因であることを明確に示している。

繰り返される温暖化への言及と、それが酒造りに与える具体的な影響(冷却、発酵管理)は、気候トレンドと岐阜の蔵の操業継続性との間に明確な因果関係を示している。

より冷涼な北海道への移転は、直接的な気候適応戦略であった。これにより、三千櫻酒造の物語は、ビジネス界における気候適応の強力なケーススタディとなっている。

東川町のテロワール:自然の恵みと共に醸す

三千櫻酒造が新たな拠り所として選んだ東川町は、酒造りにとって類まれな自然環境に恵まれている。

大雪山の伏流水:

  • 水源と品質: 東川町の最大の特徴は、全国でも珍しく上水道施設を持たず、生活用水の全てを大雪山連峰からの伏流水で賄っている点である。この地下水は、長い年月をかけて自然に濾過された、極めて質の高い天然水として知られている。
  • 酒蔵の視点: 三千櫻酒造はこの水の価値を高く評価しており、かつて岐阜の蔵で守り育ててきた自社の山の湧水と比較しても(硬度は異なるものの)遜色ない、素晴らしい品質であると認識している。この自然の恵みを最大限に活かすことを目指している。一般的に、水の硬度(ミネラル含有量)は酒質に影響を与え、硬水は発酵を促進し力強い味わい(男酒)に、軟水は穏やかな発酵で柔らかな味わい(女酒)になりやすいとされる。東川の水は岐阜の水より硬度は高いとされるが、それでもなお卓越した天然水であり、その個性が酒にどう反映されるかが注目される。
  • 酒質への影響: この良質な伏流水が、三千櫻酒造の北海道で醸される酒の品質と個性を決定づける重要な要素となることは間違いない。

北海道の気候:

  • 冷涼な気温: 北海道の冷涼な気候は、高品質な吟醸酒などに不可欠な、安定した低温での長期発酵を可能にする。これは、気温上昇に悩まされた岐阜の環境とは対照的である。
  • 省エネルギー効果: 寒冷な気候は、蒸米を冷やす際に機械に頼らず自然放冷を可能にするという実用的な利点ももたらす。
  • 積雪: 豊富な積雪は、冬期間の気温を安定させ、伝統的な「寒造り」に適した環境を提供する。

歴史的にその地に根差してきた多くの酒蔵とは異なり、三千櫻酒造は明確な意図をもって東川町の環境を選び抜いた。

岐阜の環境の不適合性(老朽化、温暖化)が移転の引き金となり、東川町の適合性(水、気候、米)が移転先決定の決め手となった。

この意図的な選択プロセスは、同社が理想とする酒質を実現するために、環境要因をいかに重視しているかを物語っている。

特に、東川町が未処理の自然な地下水に完全に依存している点は、特筆すべき差別化要因である。

これは、多くの他の酒蔵が使用する処理された水道水とは異なり、水源の自然な特性がより純粋に酒に反映される可能性を示唆している。

まさに、大雪山系の自然の恵みを直接、酒造りに活かしていると言えるだろう。

酒造りの哲学:北海道の恵みを受け入れて

三千櫻酒造の酒造りは、一貫した哲学に基づいている。それは「酒は人と自然の絶妙な協働作業で生まれる」という信念である。

基礎を一つひとつ丁寧に積み上げ、持てる技術の全てを注ぎ込み、酒と真摯に向き合う。そして、自然の力を信じ、酒が熟すのを待つ。この姿勢は、創業以来140年以上にわたり愚直に守られてきたものであり、新天地・北海道においても変わることはない。

その先には、「100年続く蔵であれ」という未来への展望がある。

北海道産米へのこだわり:

  • 100%道産米: 移転を機に、原料米を全て北海道産に切り替えた。
  • 主要品種: 主に使用するのは、北海道を代表する酒造好適米である「彗星(すいせい)」と「きたしずく」の2種類。
  • 品種特性(参考情報):
    • 彗星: タンパク質含有量が低く、大粒で収量性が高い。淡麗な味わいの酒に向くとされる。吟風と初雫の交配種で、穏やかな香りと味わい、淡麗辛口に仕上がる傾向がある。硬質米で扱いやすく、作業性も良い。
    • きたしずく: 大粒で収量性が高く、心白(米の中心部の白い部分)の発現が良い。耐冷性にも優れる。雑味が少なく柔らかな味わいの酒になるとされる。雄町系の血を引き、軽快でありながらコクと優しい渋みも持ち合わせ、幅広い料理との相性が良い。
  • (吟風:心白が大きく芳醇な酒向き。北海道産酒米の普及のきっかけとなった品種。)
  • JAひがしかわとの連携: 地元のJAひがしかわの有志農家と協力し、三千櫻酒造のためにこれらの酒米を栽培している。町、酒蔵、JAが一体となった「三位一体」の取り組みは、地域に根差した酒造りを象徴している。
  • 農業としての酒造り: これは、「酒造りも農業の担い手の一人である」という先代からの教えを、新天地でさらに深化させる試みと言える。

公設民営の利点:

  • このユニークなモデルは、町が建物やインフラを提供し、酒蔵が運営を担う形態である。これにより、酒蔵は初期の設備投資負担が軽減され、町は雇用創出、観光振興、税収増、地域ブランド向上といった利益を得る。

北海道への移転は、三千櫻酒造にとって「酒造りも農業の担い手」という哲学をより深く追求する機会となった。

移転当初からJAひがしかわと連携し、特定の酒米栽培に取り組むことは、より統合された「農醸一貫」のアプローチを可能にした。

これは、岐阜時代には難しかったかもしれない、地域とのより密接な連携を示している。

また、公設民営というパートナーシップは、単に移転を可能にしただけでなく、酒蔵運営にも好影響を与えていると考えられる。

岐阜での建て替え費用が北海道での新設費用と同程度であったことは、莫大な初期投資が必要であったことを示唆する。町が「ハード」を提供するこのモデルは、その負担を軽減する。

さらに、新しい機械導入や修理費用の8割を町が負担するという情報もあり、これにより酒蔵は、品質の高い原料の確保、熟練した人材、そして丁寧な製造プロセスといった、酒造りの「技術」そのものにより多くの資源を集中させることが可能になるだろう。

これは、彼らが掲げる酒造りの哲学とも合致する。

造り手たち:伝統と革新を担う人々

三千櫻酒造の舵を取るのは、6代目蔵元であり杜氏も務める山田耕司氏である。

杜氏・山田耕司氏:

  • 1959年生まれ。当初は家業を継ぐ意思はなく、台湾で日本語学校を経営していたという異色の経歴を持つ。1995年頃、父の体調悪化を機に帰郷し蔵に入り、その後10年間で3人の杜氏の下で酒造りを学んだ。彼のビジョンは明確で、「この先100年続くおいしい酒」を造ることであり、その実現の地として東川町を選んだ。

醸造チームとプロセス:

  • 移転に際しては、杜氏だけでなく、醸造チーム全員が家族と共に岐阜から移住した。酒造りは、全ての仕込みを大吟醸のように扱う、丁寧で手作業を重視したアプローチが特徴である。具体的な手法としては、2500L未満の小仕込みタンクの使用、10kg単位での丁寧な洗米、ストップウォッチを用いた限定吸水、放冷機を使わない自然放冷、6-7kg盛りの小さな箱麹での製麹などが挙げられる。(注:上川大雪酒造に関する情報だが、高品質な北海道の酒造りの文脈として参考になる。三千櫻酒造の詳細なプロセスについては確認が必要。)また、火災に見舞われた茨城の結城酒造を受け入れ、設備を共有して酒造りを支援したエピソードは、蔵同士の連帯感を示すものである。

この大胆な移転にもかかわらず、蔵元であり杜氏でもある山田氏と、彼を支える醸造チームという人的な継続性が保たれている点は重要である。

これにより、場所や原料(水、米)が変わっても、蔵の根幹をなす酒造りの哲学や長年培われてきた経験・技術は引き継がれ、新しい環境への適応と発展の基盤となっている。

三千櫻の味わい:酒のラインナップを探る

三千櫻酒造が醸す酒は、総じて「柔らかく優しい味わい」を特徴としている。北海道の自然の恵みと、受け継がれてきた醸造技術が融合した、独自の個性を探求している。

主要製品ラインナップ:

  • 三千櫻 純米大吟醸 愛山(あいやま):
    • 原料米:希少な酒米とされる「愛山」を使用。
    • 特徴:上品でフルーティーな香り。愛山特有のふくよかな甘味がありながら、飲みごたえと優しさ、そしてスッと消える後味を併せ持つ。
    • 推奨:冷やしてワイングラスで。食前酒にも最適。
  • 三千櫻 純米 きたしずく:
    • 原料米:北海道産「きたしずく」100%。
    • 特徴:北海道の自然を感じさせるすっきりとした味わい。軽快な飲み口とキレの良さが特徴。特に海産物との相性が良い。
    • 推奨:冷酒または常温で。刺身や寿司との相性が抜群。
  • 三千櫻 純米大吟醸 北海道産彗星:
    • 原料米:北海道産「彗星」。
    • 特徴:繊細な香りと透明感のある味わい。冷やすとその美しさが一層引き立つ。
    • 推奨:冷酒がベスト。特別な日の乾杯酒にも。
  • その他オンライン販売品:
    • 三千櫻 純米 愛山80:愛山を80%精米で使用した純米酒と推測される。
    • 三千櫻 純米吟醸 彗星55:彗星を55%精米で使用した純米吟醸酒と推測される。
    • 三千櫻 純米吟醸 きたしずく55:きたしずくを55%精米で使用した純米吟醸酒と推測される。

三千櫻酒造 製品概要表

製品名カテゴリ使用米精米歩合アルコール度日本酒度酸度香り・味わい・後味おすすめ温度ペアリング例
三千櫻 純米大吟醸 愛山純米大吟醸愛山不明不明不明不明上品でフルーティーな香り。愛山ならではのふくよかな甘味。優しく、スッと消える後味。冷酒食前酒として。または、繊細な味わいの料理、フルーツなど。
三千櫻 純米 きたしずく純米酒きたしずく (100%)不明不明不明不明北海道の自然を感じるすっきりした味わい。軽快な飲み口とキレの良さ。冷酒、常温海鮮料理全般、特に刺身、寿司。北海道産の白身魚、ホタテ、イカなど。
三千櫻 純米大吟醸 北海道産彗星純米大吟醸彗星不明不明不明不明繊細な香りと透明感のある味わい。冷酒特別な日の乾杯酒として。白身魚のカルパッチョ、アスパラガスなど繊細な野菜料理。
三千櫻 純米 愛山80純米酒愛山80%?不明不明不明(詳細不明)不明(愛山の特性から) 旨味のある料理、肉料理、チーズなど。
三千櫻 純米吟醸 彗星55純米吟醸彗星55%?不明不明不明(詳細不明)不明(彗星の特性から) 淡麗な味わいを活かし、魚介類、野菜料理、豆腐料理など。
三千櫻 純米吟醸 きたしずく55純米吟醸きたしずく55%?不明不明不明(詳細不明)不明(きたしずくの特性から) 幅広い料理と。白身魚、鶏肉、根菜の煮物など。

注:表中の価格情報は変動するため記載を省略。

この製品ラインナップは、北海道産米(きたしずく、彗星)を中心とすることで、北海道のテロワールと地域へのコミットメントを明確に示している。

一方で、兵庫県産米として知られるプレミアムな酒米「愛山」を使用した製品も存在することは興味深い。

これは、岐阜時代からの伝統を引き継いでいる可能性、あるいはこの高級米が北海道の環境と水、そして三千櫻の技術によってどのような表情を見せるかを探求している可能性を示唆している。

地元米と確立された高級米の両方を探求する姿勢は、彼らの酒造りにおける幅広さと深さを示している。

三千櫻酒造への訪問と酒の入手方法

三千櫻酒造への訪問や製品の購入を検討している場合、以下の点に留意する必要がある。

蔵見学:

  • 現在、公式な酒蔵見学は実施されていない。
  • ただし、エントランスおよび併設ショップ内の窓から、仕込みタンクなど蔵の一部設備を見学することは可能である。

直売所:

  • 酒蔵にはエントランスから入ることができる直売ショップ(ショップ営業時間:10時~15時半:火曜定休)が併設されている。

購入方法:

  • 直接購入: 酒蔵併設のショップ。
  • その他: Amazonや楽天市場などの主要ECプラットフォーム、および全国(特に北海道内)の特約酒販店でも取り扱いがある。

新しい、かつ注目度の高い酒蔵であるにも関わらず、公式な見学ツアーを提供していないという事実は、移転後の初期段階においては、観光客誘致よりも生産品質と安定供給の確立を優先している可能性を示唆している。

あるいは、公設民営という施設の設計上の制約や、立ち上げ期の人的リソースの制約などが理由である可能性も考えられる。

これは、公設民営モデルと移転というストーリー性からくる関心の高さと、実際の醸造現場の要求との間に存在する潜在的なバランスを示しているのかもしれない。

評価と認知度

2020年末に北海道での操業を開始した比較的新しい存在であるため、北海道で醸造された酒に対する長期的なレビューや評価はまだ蓄積過程にあると言える。

評判・レビュー:

  • しかしながら、日本酒評価サイト「SAKE TIME」の北海道内ランキングでは、移転後間もないにも関わらず、高い評価(3.95点、レビュー数340件)を得ており、市場から迅速かつ好意的に受け入れられていることがうかがえる。これは、三千櫻酒造の酒が持つとされる「柔らかく優しい味わい」が、多くの飲み手に支持されていることを示唆している。

受賞歴:

  • 提供された情報の中には、北海道移転後の国内外のコンクール等での具体的な受賞歴に関する記述は見当たらない。(岐阜時代の受賞歴については、本レポートの範囲外とする。)注目を集めていると言及されているが、具体的な賞の名称は挙げられていない。

移転の経緯とそのユニークな公設民営モデルはメディア等でも取り上げられ、公的な投資も伴うことから、三千櫻酒造が北海道で醸す酒の品質には、通常以上の期待と注目が集まっていると考えられる。

その中で、移転後早期に高い評価を獲得していることは、品質面での移行が成功し、市場が北海道産の三千櫻に好意的な反応を示していることの証左と言えるだろう。

結論:北海道で醸される未来

三千櫻酒造の物語は、単なる酒蔵の移転ではない。

それは、143年の歴史を持つ岐阜の老舗が、老朽化と気候変動という避けられない現実に直面し、北海道東川町という新天地に未来を見出した、勇気ある決断の記録である。大雪山の清冽な伏流水、酒造りに適した冷涼な気候、そして地元JAとの連携による高品質な酒米(彗星、きたしずく)という、北海道ならではのテロワールを最大限に活かす機会と、公設民営というユニークなパートナーシップが、この大胆な挑戦を可能にした。

「酒は人と自然の絶妙な協働作業」という変わらぬ哲学のもと、北海道の恵みを真摯に受け止め、丁寧な手仕事で醸される三千櫻の酒は、すでに多くの飲み手を魅了し始めている。

三千櫻酒造の挑戦は、伝統産業が現代の課題に適応し、地域社会との連携を通じて新たな価値を創造する可能性を示す、先駆的な事例と言えるだろう。

彼らが目指す「次の百年へ」というビジョンは、活気に満ちた北海道の日本酒シーンにおいて、確かな存在感を放ち始めている。

東川町から日本全国、そして世界へと発信される、三千櫻酒造の今後の展開から目が離せない。