HOKKAIDO SAKE LAB
雪と水と米が育てた、北の酒に魅せられて。
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根室の魂 ― 北の勝、そのベールを脱ぐ

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はじめに:根室の魂 ― 北の勝、そのベールを脱ぐ

日本の最東端、オホーツク海と太平洋に抱かれた街、北海道根室市。厳しいながらも美しい自然と、海と共に生きる人々の営みが息づくこの地に、地域で深く愛され続ける地酒が存在する。「北の勝(きたのかつ)」である。

この酒を醸すのは、1887年(明治20年)創業の碓氷勝三郎商店(うすいかつさぶろうしょうてん)。根室市内において、現在ただ一つの酒蔵として、その存在は単なる酒造メーカーにとどまらず、地域のアイデンティティと深く結びついている。一つの地域に一つの酒蔵しか存在しないという事実は、その酒が地域を代表するシンボルとしての重みを帯びることを意味する。競合する地元の酒蔵がない中で、「北の勝」は根室の風土、文化、そして人々の想いを一身に背負い、地域住民の誇りとなっているのである。

「北の勝」の名は、日本酒愛好家の間でも、特に年に一度だけ蔵出しされる限定酒「搾りたて」の存在によって、ある種の神秘性を帯びて語られることが多い。しかし、その魅力は希少性だけにあるのではない。長年にわたり地元で親しまれ、日々の食卓や祝いの席で酌み交わされてきた、地域に根差した酒としての確固たる地位があるのだ。

本稿では、この根室の魂とも言える地酒「北の勝」と、それを醸し続ける碓氷勝三郎商店の全貌に迫る。その歴史的背景、酒造りへの哲学とこだわり、多彩な銘柄の詳細、そして「幻の酒」と呼ばれる所以、独自の流通方針と地域での評判を、深く掘り下げていきたい。

日本最東端の地に刻まれた系譜:碓氷勝三郎商店の歴史

創業者・碓氷勝三郎の挑戦

碓氷勝三郎商店の歴史は、創業者である初代・碓氷勝三郎が、故郷の新潟から新天地を求めて北海道へ渡ったことから始まる。函館を経て根室に移り住んだ勝三郎は、当初、雑貨の行商などを手がけ、やがて自身の雑貨店を開業する。

明治中期の根室は、サケ・マス、コンブ漁などが盛んで、道東における漁業の中心地として活気に満ちていた。厳しい寒さの中で過酷な肉体労働に従事する漁業関係者にとって、体を温め、労をねぎらう酒は生活必需品であった。しかし、当時の酒は本州から船で運ばれるため輸送費がかさみ、非常に高価なものであったという。勝三郎はここに商機を見出した。旺盛な需要がありながら、地元で安価に手に入る酒がない。彼はこの状況を打開すべく、1887年(明治20年)、雑貨店での成功を元手に酒造業へと乗り出すのである。

彼の事業家としての才覚は酒造業にとどまらず、当時最先端の技術であった缶詰製造にも及んだ。開拓使によって日本初の商用サケ缶詰工場が石狩に設立されたのが1877年。そのわずか10年後、根室地域の有力商人であった藤野家が官営工場を譲り受け「別海藤野缶詰所」を開設したのと時を同じくして、勝三郎もサケ・マスの缶詰製造を手掛けている。さらに明治30年頃には、尾岱沼や国後島周辺で獲れるホッカイシマエビの缶詰を試作し、1905年(明治39年)にはカニ缶詰の商品化にも成功した。

米の獲れない根室の地で、本州から酒米を取り寄せてまで酒造りを始めた背景には、単なる商機だけでなく、創業者自身の気概があったことは想像に難くない。新潟出身という出自は、酒造りへの情熱と品質へのこだわりを彼に植え付けていたのかもしれない。故郷で親しまれていたような、手頃で質の良い酒を、この北の地でも実現したいという強い思いが、困難な挑戦への原動力となったのだろう。

創業と蔵の変遷

最初の酒造所は、現在地よりも海に近い弥生町に建てられた。その後、現在の常盤町・清隆町に移転するも火災で焼失。約2年の仮営業を経て、大正初期に再び現在の地に戻ってきた。今も現役で使用されている煉瓦造りの酒蔵は、この時に建てられたものであり、100年以上の時を経ている。

根室唯一の酒蔵へ

明治20年代、漁業の発展と共に根室市内には20を超える酒蔵が存在したという。しかし、時代の変遷とともにその数は減少し、現在では碓氷勝三郎商店が根室市内で唯一の酒蔵となっている。他の酒蔵が姿を消していった正確な経緯は不明だが、経済状況の変化、品質維持の難しさ、後継者問題など、様々な要因が考えられる。その中で碓氷勝三郎商店が生き残り、地域唯一の存在となったことは、同社の持つ経営手腕、品質へのこだわり、そして何よりも地域社会との強固な結びつきを示すものと言えるだろう。地元の人々に支持され続けたからこそ、幾多の困難を乗り越え、今日まで存続し得たのである。

「北の勝」誕生

創業当初の銘柄は「清泉」「志ら梅」「北龍」などであったが、1942年(昭和17年)、酒銘は「北の勝」へと改められた。これは、戦時下において日本の必勝を願い、また北の地での勝利を祈念するとともに、創業者・勝三郎の名への敬意も込められたものと考えられる。以来、この「北の勝」が唯一無二の銘柄として、今日まで受け継がれている。

戦火を越えて

1945年(昭和20年)、根室市は大規模な空襲に見舞われ、市街地の多くが焦土と化した。しかし、堅牢な煉瓦造りの酒蔵は奇跡的に戦火を免れ、創業以来の建物を今に伝えている。この困難を乗り越えた経験は、「造るなら本物を」という初代からの教えと共に、碓氷勝三郎商店の不屈の精神を象徴している。

代々受け継がれる暖簾

2018年時点での当主は、1988年(昭和63年)に五代目を継いだ碓氷ミナ子氏。それまでの男性当主は代々「勝三郎」の名を襲名する慣わしがあった。そして、2024年10月1日、個人経営から株式会社へと組織変更し、新たな一歩を踏み出している。

蔵人の技:碓氷勝三郎商店の品質へのこだわり

酒造りの哲学:「造るなら本物を」

碓氷勝三郎商店の酒造りを貫くのは、「何事も全力を尽くし、造るなら本物を」という初代からの教えである。それは、単に高品質な酒を造るという意味だけでなく、飲む人にとって心地よい、真に愛される酒を追求する姿勢を示している。五代目当主のミナ子氏が語るように、「甘ったるい、ツンツンするなどヘンだと感じる性質は徹底的に排除」し、多くの人が「飲みやすい」と感じる酒質を目指してきた。奇をてらわず、基本に忠実であること。それが長年にわたり地元で支持されてきた理由の一つであろう。

「北の勝」単一銘柄への集中

1942年以来、「北の勝」という単一の銘柄で酒造りを続けていることも、同社の大きな特徴である。多くの酒蔵が多様なブランドやラインナップを展開する中で、一つの銘柄にこだわり続ける姿勢は、その酒質を極め、ブランドイメージを確立するための戦略と言える。これにより、醸造資源と技術を集中させ、安定した品質と「北の勝」ならではの個性を磨き上げてきた。結果として、「北の勝」は根室の地酒として確固たる認知度を獲得し、地域住民にとってかけがえのない存在となっている。

妥協なき品質管理

その品質へのこだわりは徹底しており、「品質に満足できなかった年には、醸造したお酒をすべて廃棄したことがある」という逸話が残るほどである。これは「造るなら本物を」という哲学を裏付けるものであり、利益よりも品質を優先する蔵元の強い意志を示している。

根室の気候という恵み

根室の冷涼な気候は、酒造りにとって大きなアドバンテージとなる。四季の移り変わりが明確で、特に夏場でも気温が16~17度程度までしか上がらないため、年間を通じて酒造りに適した安定した環境が保たれる。この低温環境は、酵母の活動を穏やかにし、時間をかけた丁寧な発酵(吟醸造りなど)を可能にする。これにより、雑味の少ないクリアな酒質と、繊細で芳醇な香りが生まれやすくなる。まさに、根室の気候そのものが、「北の勝」の味わいを形作る重要な要素なのである。

酒の礎:水と米

水: 酒造りの根幹をなす水については、「根室の清らかな水」を使用していることが言及されている。具体的な水源や水質データは示されていないものの、根室の豊かな自然環境が育んだ良質な水が、「北の勝」の味わいを支えていることは間違いないだろう。

米: 使用する米は、銘柄によって使い分けられている。

  • 吟風(ぎんぷう): 130周年記念の純米大吟醸「壱参〇(イチサンマル)」や、10月限定発売の「純米酒」に使用される北海道産の酒造好適米。豊かな味わいを生むとされる。
  • はえぬき: 1月限定発売の「搾りたて」に使用される山形県産の米。
  • きたしずく: 純米大吟醸「令香(れいか)」に使用される北海道産の酒造好適米。
  • 五百万石(ごひゃくまんごく): 「本醸造」に使用される、新潟県発祥の代表的な酒造好適米。
  • 山田錦(やまだにしき): 12月限定発売の「大吟醸」に使用される、「酒米の王様」と称される兵庫県産の最高級酒造好適米。
  • 国産米: 定番酒の「大海」「鳳凰」に使用。

このように、北海道産の酒米(吟風、きたしずく)を積極的に採用しつつ、最高級品である大吟醸には山田錦を、本醸造には五百万石を、そして特徴的な「搾りたて」には山形のはえぬきを用いるなど、目指す酒質に合わせて全国から最適な米を選定している。これは、単に地元の米を使うだけでなく、それぞれの米の特性を理解し、最大限に活かそうとする、洗練された米選びの姿勢を示している。

北の勝を味わう:定番酒の魅力

碓氷勝三郎商店が醸す「北の勝」ブランド。その中心となる定番酒は、根室の日常に深く溶け込んでいる。

日常の象徴:「大海(たいかい)」と「鳳凰(ほうおう)」

大海: まさに「北の勝」の顔とも言える銘柄。かつての級別制度でいう2級酒(佳撰クラス)に相当する普通酒である。根室のスーパーや酒屋で最もよく見かけるのがこの「大海」であり、地元では単に「北の勝」と言えばこれを指すことが多い。

味わいは、キリッとした辛口で飲みやすい。後味はすっきりとしており、ほのかに海の香りを感じさせるという評価もある。根室で水揚げされる新鮮な魚介類、特に花咲ガニとの相性は抜群とされる。日本酒が苦手な人にも勧められる、親しみやすい酒質である。

鳳凰: 「大海」よりやや上のグレード、旧1級酒(上撰クラス)に相当する普通酒。

「大海」と比べると、より味わいに芯があり、芳醇な香りが特徴。それでいて飲み飽きしないすっきりとした後味も併せ持つ。冷やしても燗にしても美味しく楽しめる。贈答用としても人気があり、徳利入りの商品も存在する。

一歩進んだ味わい:「本醸造」

定番酒の中でも、より米の旨味と洗練された味わいを求める向きには「本醸造」がある。

酒造好適米「五百万石」を60%まで磨いて醸される。

香り豊かでコクのある味わいが特徴で、飲み飽きしないバランスの良さも持つ。燗につけるとその風味がより一層引き立つが、冷やしても爽やかな口当たりを楽しめる。

表1:北の勝 定番酒 スペック一覧

銘柄特定名称使用米精米歩合アルコール度数日本酒度酸度価格例(1.8L)特徴
大海普通酒国産米71%15.7%N/AN/A¥1,821キリッとした辛口、飲みやすい、海の香り、根室の魚介と好相性
鳳凰普通酒国産米70%15.4%N/AN/A¥2,074芳醇な香り、味わいに芯がある、すっきり飲み飽きしない
本醸造本醸造酒五百万石60%15-16%N/AN/A¥2,651香り豊か、コクがある、燗で風味が引き立つ

価格は希望小売価格(税込)。日本酒度・酸度は情報なし。

最良のペアリング:根室の海の幸と共に

「北の勝」の真価は、やはり根室の豊かな海の幸と共に味わうことで最も発揮されると言えるだろう。「大海」や「鳳凰」の持つキレの良い味わいは、新鮮な刺身や貝類、そして根室名物の花咲ガニの旨味を引き立てる。一方、「本醸造」の持つコクは、煮付けや焼き魚など、よりしっかりとした味付けの料理とも好相性である。根室の風土が生んだ酒は、その土地の食文化と深く結びついているのである。

稀少なる至宝:北の勝 搾りたて ―「幻の酒」の真相

「北の勝」の名を全国の日本酒愛好家に知らしめている要因の一つが、年に一度だけ、1月に限定発売される「搾りたて」の存在である。その入手困難さから「幻の酒(まぼろしのさけ)」と称され、発売日には根室の街に熱狂が生まれる。

「幻の酒」と呼ばれる理由

「搾りたて」が「幻」と形容される背景には、いくつかの要因がある。

  • 極端な限定性: まず、生産量が非常に少ない。2025年の製造本数は全体でわずか1万7500本であった。これは全国の需要に対して極めて少ない数である。
  • 年一回の発売: 発売は毎年1月下旬の一度きり。この時期を逃すと、次の年まで手に入れることはほぼ不可能となる。
  • 入手経路の限定: 碓氷勝三郎商店は蔵元での直売やオンライン販売を一切行っておらず、購入は基本的に根室市内の限られた酒販店やスーパーマーケットに限られる。
  • 即日完売: 上記の要因が重なり、発売と同時に瞬く間に完売してしまう。開店前から長蛇の列ができ、整理券が配布されることも珍しくない。
  • 高額転売: その希少性から、フリマアプリなどでは定価の数倍の価格で転売されるケースも後を絶たない。

年に一度の熱狂:発売日の光景

毎年1月下旬の発売日には、根室市内の販売店前に異様な光景が広がる。

  • 氷点下の寒さの中、前日の夜から並び始める人々。
  • 札幌、函館、北見、苫小牧など、道内各地からこの日のために根室を訪れる熱心なファン。
  • 開店と同時に、用意された「搾りたて」が飛ぶように売れていき、わずか数分、時には数十秒で完売する店舗もある。
  • 購入できた喜びの声と、手に入れられなかった人々の落胆が交錯する。

この一連の出来事は、単なる商品の発売を超えた、地域の一大イベントとなっている。この熱狂ぶりは、「搾りたて」が単なる美味しい酒というだけでなく、手に入れること自体に価値がある、特別な存在であることを物語っている。希少性、伝統、そしてそれを求める人々の情熱が一体となり、「幻の酒」としての物語を紡ぎ出しているのである。

搾りたての味わい

では、人々をこれほどまでに惹きつける「搾りたて」とは、どのような酒なのだろうか。

  • フレッシュな生酒: その名の通り、醪(もろみ)を搾った後、一切の火入れ(加熱殺菌)や割り水(加水)を行わずに瓶詰めされる生酒(または生原酒)である。
  • 新春の香り: 新年にふさわしい、フレッシュで爽やかな香りが特徴とされる。
  • 力強いアルコール感: アルコール度数は18.5度、あるいは19度と非常に高く、力強い飲みごたえがある。
  • 柔らかな口当たりとキレ: 高アルコールながら、口当たりは柔らかく、喉越しが良いと評されている。飲み飽きしないバランスの良さも持ち合わせているようだ。

表2:北の勝 搾りたて スペック概要

銘柄特定名称使用米精米歩合アルコール度数日本酒度酸度発売時期/限定情報特徴
搾りたて生酒はえぬきN/A18.5-19%N/AN/A毎年1月下旬フレッシュな香り、高アルコール、柔らかな口当たりとキレ

使用米は山形県産。精米歩合、日本酒度、酸度は情報なし。

四季を彩る酒:その他の限定酒たち

「搾りたて」の強烈なインパクトに隠れがちだが、碓氷勝三郎商店は年間を通じて、他にも魅力的な限定酒を世に送り出している。これらは、「北の勝」ブランドの奥深さと、蔵元の確かな技術力を示している。

  • 大吟醸: 毎年12月に発売される、北の勝ブランドの最高峰。酒米の王様「山田錦」を贅沢に40%まで磨き上げて醸される。アルコール度数は16~17度。香り高く、柔らかで繊細な口当たりが特徴。その品質は高く評価され、全国新酒鑑評会で複数回の金賞受賞歴を誇る。価格は1.8Lで8,000円を超える高級酒である。
  • 純米酒: 毎年10月に発売される限定品。北海道産の酒造好適米「吟風」を使用(130周年記念酒「壱参〇」も吟風を使用)。精米歩合は60%。アルコール度数は15~16度。米本来の旨味をじっくりと楽しめるように設計されており、穏やかな香りと程よい酸味、スッキリとした端麗辛口の味わいが特徴。
  • 純米大吟醸 令香(れいか): 130周年記念酒「壱参〇」から5年を経て登場した純米大吟醸。北海道産の酒造好適米「きたしずく」を100%使用し、40%まで精米。アルコール度数は15~16度。芳醇な味わいと高らかな香りが特徴とされる、唯一無二の逸品。
  • 吟醸酒: 8月に発売される限定酒。精米歩合は55%。アルコール度数は16~17度。程よい吟醸香と、スッキリとしたキレの良い後味が特徴。冷やして飲むのがおすすめ。
  • 冷用酒: 夏限定で発売される本醸造ベースの酒。アルコール度数を14~15度とやや低めに抑え、爽やかな飲み口に仕上げている。キンキンに冷やして、暑い夏に楽しむのに最適。
  • まつり 大吟醸: 北海道三大祭りの一つに数えられる根室金刀比羅神社例大祭に合わせて発売される特別な大吟醸。精米歩合50%。アルコール度数は15~16度。祭りにふさわしい、キリッとした華やかな味わいが特徴。
  • 純米大吟醸 壱参〇(イチサンマル): 2017年に創業130周年を記念して2300本限定で発売された特別な純米大吟醸原酒。北海道産「吟風」を40%まで精米。日本酒度は-2とやや甘口寄りの設計。原酒ながら重さを感じさせず、軽やかな印象を与える。

表3:北の勝 限定酒 スペック概要

銘柄特定名称使用米精米歩合アルコール度数日本酒度酸度発売時期/限定情報特徴価格例(1.8L)
大吟醸大吟醸酒山田錦40%16-17%N/AN/A毎年12月香り高く柔らか、最高峰¥8,215
純米酒純米酒吟風60%15-16%N/AN/A毎年10月米の旨味、端麗辛口¥2,908
令香純米大吟醸きたしずく40%15-16%N/AN/A不定期?芳醇な味わい、高らかな香りN/A
吟醸酒吟醸酒国産米55%16-17%N/AN/A毎年8月程よい吟醸香、キレが良い¥4,400
冷用酒本醸造酒国産米60%14-15%N/AN/A夏季限定低アルコール、爽やかN/A (300ml)
まつり大吟醸酒国産米50%15-16%N/AN/A金刀比羅神社祭(8月)限定キリッとした味わい、華やかN/A (300ml)
壱参〇純米大吟醸原酒吟風40%N/A-2N/A2017年 130周年記念 (2300本)軽やかな印象の原酒N/A (720ml)

価格は希望小売価格(税込)。日本酒度・酸度は一部を除き情報なし。

これらの限定酒は、「搾りたて」ほどではないにせよ、生産量が限られているため、地元以外での入手は依然として難しい場合が多い。見かけた際には、その季節ならではの味わいを試してみる価値があるだろう。

根室に根ざして:流通と評価

流通戦略:徹底した地元中心主義

碓氷勝三郎商店の最も際立った特徴の一つが、その流通方針である。生産される「北の勝」の約8割は、釧路・根室地域で消費されているという。主な販売経路は、根室市およびその周辺の酒店や一部のスーパーマーケットに限られている。

蔵元の姿勢:非公開主義と地域へのこだわり

さらに特筆すべきは、蔵元での直接販売や見学を一切行っていない点である。現代の酒蔵ツーリズムやダイレクトマーケティングの流れとは一線を画すこの姿勢は、単なる伝統墨守ではない、明確な意図に基づいていると考えられる。それは、「北の勝」を単なる商品としてではなく、根室という土地の空気、文化、そして食と共に体験してほしいという強いメッセージである。蔵元は、消費者が根室を訪れ、地元の店で酒を買い、地元の料理と共に味わう、その一連の体験を通じてこそ、「北の勝」の真価が伝わると考えているのだろう。この意図的な非公開性と地域限定的な流通は、酒の希少価値を高めると同時に、根室への関心を喚起し、地域経済への貢献にも繋がっている可能性がある。

地元での評価:「根室の命の水」

地元根室における「北の勝」の評価は絶大である。「大海」は根室人の「ソウルドリンク」「命の水」とまで表現され、市内のほぼ全ての居酒屋で提供されている定番中の定番である。地域住民にとって、「北の勝」は単なる地酒ではなく、生活の一部であり、誇りそのものなのである。

広がる評判:品質への信頼

根室以外でも、「北の勝」の評判は高い。特に「搾りたて」の熱狂ぶりは前述の通りだが、他の銘柄についても、その品質は高く評価されている。「大吟醸」は全国新酒鑑評会で金賞を複数回受賞しており、これは蔵元の技術力の高さを客観的に証明している。愛好家のレビューを見ても、「クオリティが高い」「飲みやすい」「万人に愛される味わい」といった好意的な評価が目立つ。製造量が少なく入手が難しいことも相まって、「北の勝」は品質と希少性を兼ね備えた、価値ある地酒として認識されているのである。

結論:根室のエッセンスを体験する

碓氷勝三郎商店が醸す「北の勝」は、単なる日本酒の銘柄を超えた存在である。根室唯一の酒蔵としての歴史と矜持、品質への妥協なきこだわりと地元に愛される飲みやすさの追求、そして「搾りたて」に代表される限定品の希少性とそれに伴う熱狂。これら全てが絡み合い、「北の勝」ならではの独特の魅力を形成している。

特筆すべきは、その徹底した地域密着の姿勢である。蔵元での直売や見学を行わず、流通を地元中心に限定する方針は、「北の勝」を味わうという行為を、根室という土地の風土、食文化、そしてコミュニティを体験することと不可分に結びつけている。冷涼な気候、豊かな海の幸、そして地元の人々の温かさ。それら全てが、「北の勝」の味わいを一層深いものにする。

情報化が進み、あらゆるものが容易に手に入る現代において、碓氷勝三郎商店は敢えてその流れに逆行するかのように、土地に根ざした伝統的な酒造りを守り続けている。その頑なとも言える姿勢が生み出す「幻の酒」は、これからも多くの日本酒愛好家の心を捉え、最東端の街・根室への旅情をかき立て続けることだろう。「北の勝」を飲むことは、根室のエッセンスそのものに触れる体験なのである。